2012年のクリスマスから「いつもよりちょっと良い食材を使う(ありきたりな)」コースではなく「テーマ性を持たせた」コースを作るようになりました。今となっては明確な理由が思いだせませんが、もともと音楽の仕事をしていたこともあり「料理と音楽を融合したらおもしろいかも」くらいの感覚だったと思います。
以下当時の料理説明をそのまま載せています。
「料理×音楽」をコンセプトにした2012年のvaleのクリスマス特別コース。全てのお皿(楽器?)が完成しました!
「ボレロ」とはスペイン起源の舞曲で、中でもラヴェルのボレロは有名です。
スネアドラムから始まる単調なリズムに同一のメロディが様々な楽器により奏でられ、徐々に楽器が重なり合っていく、そのイメージでコースを作りました。
まずは要となるスネアドラム。
これはもうスペイン料理では「オリーブ」しかありません。
今回のコースではオリーブは「グリーン」、「ブラック」、オリーブオイルは「ピクアル」、「オヒブランカ」、「アルベキーナ」(それぞれ品種の名前)の3種類を料理によって使い分けてます。
常にどのお皿にも陰になり日向になり登場する「オリーブ」。
2皿目「パン コン トマテのジュレ」
パン コン トマテはカタルーニャ州の郷土料理でバルセロナのバルに行けば100%ある料理です。
作り方は色々で、パンに固いトマトをすりつけて焼くところもあれば、ダイスカットのトマトをのせるところもあります。
やはりトマトを抜きにスペイン料理は語れない(?)ということで、最初のソロのフルートをイメージしてトマトを食材に選びました。
当店のパン コン トマテは透明なトマトジュレに、薄いパリパリのバゲット、トマトの粉を合わせます。この時期でもおいしいトマトを使って作る「パン コン トマテ vale風」をご賞味ください!
3皿目「玉ねぎの雫と海老の瞬間コンフィ」
玉ねぎの汁を煮詰めて濃厚にしたものと、海老を熱したオリーブオイルで一瞬だけ火を通して半生にしたものを3皿目にもってきました。
クラリネット、オーボエと続くソロのように、その材料を持ち味を生かした小さな前菜を始めに全4皿お出しします。
4皿目「にんにくの低温コンフィと生ハムのフリト」
海老とは逆に低温のオリーブオイルでじっくり火を通してホクホクにしたにんにくを生ハムで包んで揚げた小さな前菜です。
コンフィは「ピクアル」という品種のオリーブオイルを使って火を通します。普通のオリーブオイルの味や香りをどれも一段階強くしたようなオリーブオイルです。
にんにく、生ハム共にスペイン料理には欠かせない素材。サックス、ピッコロのイメージで。これで軸になる素材が出揃いました。
5皿目「澄んだソパ デ アホとチーズのパリパリ」
今までの4皿で使った海老以外の全ての材料でスープを作りました。材料を漉して濃縮したスープはにんにくの香りとトマトの酸味が良いバランスです。
アクセントにチーズをパリパリに焼いたものを添えます。
6皿目「冬野菜のエスカリバーダ 黒オリーブのソース」
エスカリバーダは焼き野菜のサラダのことです。
珍しい冬野菜を焼いて、アルヴェキーナオリーブオイルを合わせます。青リンゴのような爽やかな香りが特徴のオリーブオイル。
ソースはブラックオリーブにアンチョビ、にんにくを合わせたペースト状のソースです。
曲をドラマティックに仕立てるバイオリンのイメージで野菜料理を6皿目にもってきました。
7皿目「寒じめほうれん草で包んだバカラオの蒸し焼き」
7皿目は魚料理です。
スペイン料理の代表的な魚と言えば「バカラオ」、塩漬けにしたタラです。
バカラオにきのこやドライトマト、オリーブなどを合わせて寒じめほうれん草で包み、オーブンで蒸し焼きにします。
バカラオの塩がほうれん草に染み、ほうれん草の香りがバカラオに移る。野菜の弦に続き、チェロやコントラバスの重厚さが加わる、そんなイメージで作りました。
8皿目「仔羊骨付きロースのあられエスカローペ ソフリート添え」
エスカローペはパン粉焼のことなんですが、パン粉ではなく「あられ」を付けて焼いてます。
パン粉よりも香ばしく仕上がります。
添えてあるソフリートはにんにく、玉ねぎ、トマト、オリーブオイルを使ったカタルーニャの代表的なソースです。
使うオリーブオイルは「オヒブランカ」。非常に力強く、インパクトのあるオリーブオイルです。
9皿目「パエリアミクスタの分解」
コース最後のお料理です。
大団円を迎えるための最後の料理をどうすればいいか、、けっこう悩みました。
やはりトリは代表的なスペイン料理の「パエリア」だろうと思い、今までの8皿の材料を使って「パエリアミクスタ(ミックス)」を作りました。
野菜・魚・肉のスープをバランスよくブレンドして作るパエリアに、それぞれの素材を生かしたテリーヌを添えてます。
そのままでも、お米と一緒でもおいしく召し上がって頂けるように仕上げています。
これにてvaleのボレロは終演です♪
10皿目「ピスタチオのケーキと米粉ココアポルボロン」
デザートの位置づけを迷いました。
ボレロの一部として出すにはにんにくやトマトを使うべきなので(笑)
そこでコース終演後の「余韻」としてデザートを出すことにしました。
余韻をイメージしてもらうために、オリーブの葉と熟したオリーブの実に見立てた、ピスタチオのケーキとスペインでクリスマスに食べられる「ポルボロン」にココアを混ぜて作りました。
是非このデザートで余韻にひたってください。