2016年のクリスマスコースのテーマは「リマスタリング」でした。
2013年8月から通っていた月2回の陶芸教室の成果(?)を思う存分発揮して、2016年初頭からこのコースのための器を作り続けていました。
1年後の閉店に向けて2016年7月から店内を間仕切って客席を半数にして私1人で営業していましたが、その間仕切りの向こうでせっせと作陶に励んでいたことを思い出します。
マスタリングエンジニアは私が10代の頃に志した仕事で、それを10年変え続けた自分の料理で疑似的に行うことはとても楽しい作業でもありました。しかも器までそれに合わせて。まあ今よりも作陶が下手だったので大変でしたが。それまでvaleで培ったきたことを全て出し切れたコースだったと思います。
以下当時の料理説明をそのまま載せています。
毎年恒例のことですがクリスマスは普段と違い、コースにテーマを設け、そのテーマに沿って料理を展開します。が、そのテーマと料理の相関解説が毎年長くてウザい(>Σ<)なら短くしろよと言われそうですが、ある意味自身の備忘録となっているため、、、書きます(笑)
毎年ご興味をもって読んで下さる方には感謝しております(^-^)
こんなに早く書き始めるのには理由がありまして。。。
今秋はこのメニューやイベントのため多忙になりそうなので、先手を打たないとクリスマスに間に合わないと思ったからです(昨年はクリスマスコースが始まってもまだ書いていたので笑)
…というわけで始めます!
今回のクリスマスコースはvale最後のクリスマスコースです。
集大成にしたいという思いもあり、実は3年前からすでに大枠を決めてそれに向けて始動し、昨秋にテーマを決定しました。
vale最後のクリスマスコースのテーマは「リマスタリング」です。
今年のクリスマスコースのテーマ「リマスタリング」とは何ぞや、と思う方もいらっしゃるかもしれません。
一言で言えば、「リマスタリング」とは古い音(または映像)を現代の技術で、新しく蘇らせることです。
唐突ですが、皆さんが好きなときに聞く音楽がCDであれ、配信であれ、その製作過程は(ほぼ)どれも一緒です。
アーティストの演奏を録音(レコーディング)して、それをボーカル、ギター、ドラムなど各パートに振り分けて調節し(ミキシング)、最後にそれをステレオの状態で仕上げてオリジナル音源を作ります。
この最後の仕上げの作業を「マスタリング」と呼びます。
各曲の音量や曲間を整えたり、PQと呼ばれるコードを打ち曲の始まりと終わりを決めたりして、工場出荷できる原盤を作る工程です。
しかしマスタリングはそれだけではありません。すでにLRの2chになっている音をアナログに、またデジタルに変換し、EQやコンプレッサーと呼ばれる機器を使い、特定の周波数帯の音質や音圧を変え、最後の音作りをしていきます。
こう書くと「へえ…」という感じかもしれませんが、料理で例えるなら、、、ここに豚骨スープがあるとします(笑)鶏ガラスープ、さらには隠し味で香味野菜のスープも加わり重厚なラーメンのスープが出来上がりました。
しかしお客さんが試飲して「もうちょっと玉ねぎの甘味が欲しいな」と言います。玉ねぎだけ足せばいいじゃないと思うかもしれませんが、材料はもう使いきってしまって余分はありません。なので塩や砂糖などの調味料を駆使して玉ねぎの味だけを強くしなければならないのです。
これがマスタリングです(ちょっと無茶な説明かもしれません…なぜなら塩や砂糖を加えた後にundoはできないからです。でもまあいっか笑)
仮に調味料を加えた後にリセットできるとしても、それをやるのは至難の技です(私は)。しかしプロのマスタリングエンジニアは一発でクライアントの要求に応えます。彼らは音の魔術師です。
「マスタリング」についての解説が長くなってしまいましたm(-_-)m
つまり「リマスタリング」とは古い音源をそのマスタリングの技術を使い蘇らせることなのです。
なぜ私がマニアックに解説をしているかというと、実は10代の頃にマスタリングの現場で働いていたからです。日本で最高峰のエンジニア(だと私は思っています)に付いて約1年アシスタントをしていました。
もちろん、私は箸にも棒にもかからず音響の世界を去りましたが(>o<)まあ早めに気付いたおかげで今こうやって料理を作っているわけです。
料理を作り、(勢いで)店を開き、失敗もしつつ、2007年7月から毎月コース料理を約9年半変え続けてきました。
では、、、そんな今までの自分の料理を「リマスタリング」したらどうなるのか。
これが今年のクリスマスのテーマです。
作る料理のレシピ構成は(ほぼ)変えずに、今自分が持っている知識、技術を駆使して、工程、温度、時間を再調整し「リマスタリング」します。
コースの構成は全7皿。デザートが盛り合わせで1皿の予定です。
500以上あるレシピの中からどうやって選ぼうか迷いましたが、お客様にお褒めの言葉を頂いた料理、従業員のお気に入り料理、自分の印象に残っている料理などから選びました。
つまりは、valeの「ベスト盤」を作るつもりです(^-^)
そして「リマスタリング」するのは料理だけではありません。
2013年の春、大阪市立美術館で「ボストン美術館 日本美術の至宝展」が開かれました。
アーネスト・フェノロサや岡倉天心などによって守られた「至宝」を見るため、私はそれに足を運びました。
曽我蕭白の「雲龍図」や尾形光琳の「松島図屏風」など素晴らしい作品がたくさんあったのですが、その中でも一つの作品に非常に惹かれました。
それは伊藤若冲の「鸚鵡図 (おうむず)」です。
この作品を初めて見た時、その透明感に惹かれました。なぜこんなにも透明感のあるオウムが描けるのかと思いよく見ると、下の和紙を巧みに利用して描いていることがわかりました。
それを穴のあくほど見つつ(笑)、ふと思ったことがあります。
「自分の料理はお皿をこの和紙のように使えていない」
つまり、若冲の絵は描かれたオウムと下の和紙が一体となって完成ですが(私見)、valeの料理に対してお皿は「料理を盛る器」でしかないということです。
何を当たり前のことを、そして若冲と比べんなや(笑)と言われそうですが、それまで私は無地の白いお皿を使うことで「キャンバス代わり」にして盛り付けを考えていました。
しかし、それはただの主従関係で「お互いが一体となって完成」ではないと気付きました。
日本が誇る和食では食材の色彩と器の景色が融合して、食べる側の心を惹きつけます。
では色彩、景色だけではなく、さらに同じ「コンセプト」を料理にも器にも込めて一体化させたらどうだろうか。
これが出発点でした……まあ、こんなにも長い旅になるとは思ってもいませんでしたが(笑)
2016年のクリスマスコース、料理と共にリマスタリングするのは「器」です(^-^)
「器」をリマスタリングするにあたり、どんな器を使えばよいのか。。。
全くわからなかったので、それなら片っ端から見ていこうと思い、2013年の半ばから「器を巡る旅(自称)」を始めました(笑)
六古窯をはじめとして、南は沖縄、北は、、、北はあんまり行ってないな、、、というか産地があんまりないので、、、まあとにかく全国津々浦々周りました(^-^)
今まで自分が知らなかっただけで、各地の土、それぞれの窯で、平凡な焼き物から個性豊かな焼き物までなんと色々あることか。と驚きました。
そしてそれらを巡る中で、陶芸に関わる人たちから様々なことを学びました。
沖縄の読谷では「人と器の関係」、佐賀の唐津では「伝統工芸の昇華方法」、愛知の常滑では「テーブルで喧嘩しない器」、栃木の益子では「現代の日常使いの器」、など書き切れない程様々なことです。
さて、それだけ周れば自分の気に入った器はたくさん見つかります。
ただ、それらの中からどれを今回のコースに使えばよいのか、、、それを選ぶのが中々難しい(>Σ<)
自分が考える料理と、それに合う器、、、合う器、、、、、、って自分で作ればいいやん(°□°;)
というわけで自分の料理に合う器は、自分で作ることにしました(笑)
自分のコンセプト料理に合う器を自分で作る、と思い立ち、このような器が出来上がっていきました……と言えれば格好いいのですが、もちろん一朝一夕にはいかず…この2年間、ゆっくりと陶芸の基礎を学び、なんとか「ものを留める器」は作れるようになりました(笑)
2016年になり、「リマスタリング」のテーマを決めると同時に、メニュー内容、そして器のデザインを決めていき、現在必死で制作しています。「間に合わないっ(>Σ<)」とやや焦りながら(笑)
割れたり、反ったり、大きさがまちまちだったり、思うように仕上がらなかったり、と3歩進んで2.8歩は下がりながらの制作です。それでも少しずつお客様にお出しできるようなものが出来上がってきています…はい(゜∇゜)
そういえば、8月から店に設置した壁の向こう側。お客様に「何があるんですか?」と聞かれて「秘密基地です(笑)」答えていますが、実はアトリエになっています。
休憩時間、休業日はひたすらここで作業をしています(ちなみにお客様がいらっしゃる時には絶対に作業はしておりませんのでご安心を)
さて、ここまでがコンセプトで、次回からは(やっと)コース内容を紹介していきます!
遅くなりましたが1皿目の紹介です。
「パン コン トマテ vale風」
2007年7月、オープンした月の前菜です。
「パン コン トマテ」は私が滞在していたバルセロナをはじめとしたカタルーニャ州でよく食べられる料理です。バルでお通しのような感じで勝手に出てくる所もあります。
パンにトマトをすりこむ、もしくは載せて焼いて、オリーブオイルをたっぷりかけて食べます。
それを透明トマトのゼリーを使ってアレンジした一品です。
2皿目「野菜のメネストラ フィエスタ」
2008年4月の前菜です。
「メネストラ」はイタリア料理の「ミネストローネ」と同じ語源で「野菜の煮込み」のことです。
色々な野菜を煮込むだけではなく、色々な調理法で一皿にもったらおもしろいのでは、という発想で「フィエスタ(祭り)」という名前をつけました。
ムース、ゼリー、泡、ピューレなど、色々形を変えた旬野菜の盛り合わせにします(^-^)
3皿目は「鴨ローストのサラダ仕立て 山芋のフワフワとごぼうのカリカリ」
2012年12月の前菜です。
これは特にスタッフのうけが良かった料理です(単に鴨好きが多かっただけかもしれません笑)
鴨とマスタードソースを合わせる料理をアレンジしたらこうなりました( ´∀`)
マスタードソースはタスマニアンマスタードという粒の大きなマスタードを使います。
4皿目は「穴子、パンセータ、蓮根のフリト」
2012年8月の魚料理です。
穴子でイベリコ豚の生ベーコンと蓮根を薄くスライスしたものを巻いて衣をつけて揚げた料理。当時は蓮根の代わりにズッキーニを使いましたが、旬ではないので蓮根を使います!
穴子の旬も夏では?と思われるかもしれませんが、この時期の穴子も脂がのっていて美味しいです(^-^)
香味野菜とトマトのソースを合わせます!
5皿目は「ティスナオ ハポネス」
2009年6月の魚料理です。
北海道羅臼産の真鱈を塩漬けし、乾燥させた「バカラオ」と旬野菜を使った料理。
バカラオはオープン当初から作ってきたにもかかわらず未だ「難敵」です(>Σ<)塩の抜き加減と火の入れ方が難しいので。そこに重点を置いてリマスタリングしようと思っています。
6皿目は「牛タンのカルデレタ 下仁田ネギのカルソッツ風」
2013年12月の肉料理です。
牛タンを赤ワインや肉のスープで煮込んだものとオーブンでローストした下仁田ネギ、ナッツとトマトのソース「ロメスコ」を合わせます。
12月に牛タンを使用するのはもはや恒例となっていて、様々な牛タン料理を作ってきました。今年はクリスマスコースで牛タンを使用するつもりでしたので、12月コースの肉料理は丹波の猪すね肉を使います(^∀^)ノ
7皿目は「パエージャのメロッソ」という料理です。
メロッソというのはリゾットのことなのですが、この料理はオープン当初、まだタパスをやっていない頃に単品でご用意していた料理です。
元ネタ(!)は彼の有名な「エル・ブリ(ブジ)」の料理です。
本店には結局行くことができなかったのですが、セビージャから車で約40分のところにある「アシエンダ・ベナスサ」というホテル、通称「エル・ブリ・ホテル」でこの元ネタになった過去の「作品」を頂くことができました。
サクサクのライスパフに濃厚な海老のソースを合わせた「エル・ブリ流のパエージャ」の味が忘れられず、このメロッソを作りました。
私にとって愛着のある料理です(^-^)
器は半磁土を使ったもので約4kgの土の塊をくりぬいて作っています。
その器よりも何よりも使って頂きたいのがこのスプーン!
岩手のプラム工芸さんで作られている「斧折樺(オノオレカンバ)」という木のスプーン。
本当に使いやすく素晴らしい食器です。幹が1mm太くなるのに3年かかるため、斧が逆に折れてしまうほど硬い木だそうで、それを加工する技術も素晴らしい。
持った瞬間に「あ、これクリスマスコースで使おう」と思いました(笑)
小さな前菜やデザートにも使用させて頂くので、是非じっくりと触ってみて下さい♪
さて、いよいよ最後の一皿です!
デザートは3種の盛り合わせです。
・アロス コン レチェ vale風<2008年1月初出>
・お抹茶フリスエロ<2015年4月>
・トリハスと苺チーズアイス<2011年4月>
どれも「苺」を使ったデザートで統一しました。
アロス コン レチェ vale風はvaleでは唯一の「使いまわしメニュー(←言い方)」です。毎年1月のコースデザートは必ずこれです。
どうやってこれを思いついたのか、、、思い出せません(笑)が、多くのお客様が気に入って下さっているデザートです。
1月のデザートなので来月とかぶってしまうんですが、「valeのベスト」リマスタリング盤ということを考えると外すわけにはいきませんでした(゜∇゜)
お皿は、赤土、白土、黒御影土を練り込んでマーブル模様にして作った長角皿です。練り込みが甘く一部マーブルになってないお皿もありますが、、、そこはご愛嬌♪
構想から言えば昨年11月頃から考え始めた今年のクリスマスコース。この4月からは器製作にもとりかかった、、にもかかわらず、結局ギリギリになってしまいました(笑)
ギリギリというか最後の最後で間に合いませんでした、、箸置きが。若冲へのオマージュを込めて桝目にケルト紋様のトリスケル(意味は再生・復活など)を描こうと思っていましたが、間に合わず桝目のみになってしまいました(笑)
釉薬は考えていなかったので焼締めです。
お箸は新潟の広沢漆芸さんのお箸です。漆家具から漆器まで全て自社工房で製作しておられて、お箸はとても洗練されていて使いやすいです(^-^)
なんだかこの光景を見て、ホッとひと段落した気でいましたが、本番は明日からでした(笑)
決して料理の気を抜いてるわけではなく、今日は1日中仕込んでいました。こちらも準備バッチリです( ´∀`)
来て下さる方々に良い時間を過ごして頂けると思います♪お待ちしてます(^-^)