2013年のクリスマスコースのテーマは「スペインの芸術家」でした。他の国々と同じようにスペインにもたくさんの芸術家がいます。世界的に有名な芸術家もいれば、スペインに詳しい人が知る芸術家もおり、その中から私が特に好きな(尊敬する)芸術家を5人集めてその人たちをイメージした料理でコースを作ってみました。
以下当時の料理説明をそのまま載せています。
当店の近くにある西宮ガーデンズは11月に入り、ハロウィンモードからクリスマスモードに一新されました(一晩であれをするのは大変だろうなと思います)。
それに習い(?)valeのフェイスブックもクリスマスモードに変えていこうと思います(^-^)
昨年はラヴェルの「ボレロ」に合わせて、食材を徐々に増やしてオーケストラが奏でる曲を表現したメニューを作りました。
今年は何をしようと考えたのですが・・・
当店はスペイン料理店です(一応)。
「旬の和食材×スペイン料理」ということで「スペイン風料理」を作り続けています。
では「スペイン料理」の土台を使うことなく「スペイン」を表現してみたらどんな料理になるだろうと考えました。
どうやったら、スペインを表現できるか・・・けっこう考えました(笑)
スペインには多くの偉大な芸術家がいます。
建築・詩・絵画・音楽・料理の5つの分野で
それぞれ1人選び、その人物のフィルターを通して料理を作れば、スペインを表現できるのではと思いました。
未だ創作の過程におりますが、試行錯誤やっていることをクリスマスモードのvaleフェイスブックでお伝えしていきます。
ご興味ある方はどうぞお付き合い下さい(^-^)
5人の芸術家のフィルターを通して料理を作り、スペインを表現するという今年のクリスマスメニュー。
1人目は「フェデリコ・ガルシア・ロルカ」詩人・戯曲家です。
ロルカは日本ではあまりなじみがないかもしれません。
という私もスペインに行くまで全く知りませんでした。
私はある画家を通じてロルカを知りました。
その人はホアキン・トレンツ・リャドと言います。
私が東京でお世話になった人から「バルセロナに滞在するなら是非マジョルカ島に行ってリャドの絵を見てきたら良い」と言われてマジョルカ島へ渡ったのは2006年の8月でした。
リャドは1946年に生まれ「ベラスケスの再来」と言われた現代スペイン画の天才でしたが、47歳で急逝してしまいます。
生前に来日したこともあるらしいので(残念ながら私は10歳で知りませんでした(;∇;)
ご存知の方もいらっしゃるかもしれません。
そんなリャドのアトリエ兼美術館に行った私は数々の絵に魅了されて、小さな建物に3時間も滞在してしまいました。
帰るときにスタッフの人に「まだいたの?」と笑われました(笑)
絵を言葉で表現するには拙いボキャブラリーしかないので恐縮ですが、
光と自然を捉えた美しい色彩、力強い人物の目が印象的でした。
写真はアトリエ内で撮影したものです(ブレてますが)。
あ、ロルカのことまでたどり着かない・・・次回へ続きます(^-^)
(詩人ロルカを知る経緯となった画家リャドについて前回長々と書きましたが・・・)
お店をオープンする際にどうしてもリャドの絵を飾りたくて探しました。
しかし、シルクスクリーン(版画の一種)でもまあまあお高い。。
開店費用等でかつかつ状態の私にとっては、ポスターを買うのが精一杯でした(T T)
そして、数少ないポスターの中から選択したのが「ロルカの詩」という絵だったんです。
そこには「ルシーア・マルティーネス」と題されたロルカの詩がリャドの絵と共にプリントされていました。
詩からインスピレーションを得て描かれたのだろうと思いました。
(実は今も推測の域を出ません。もしかしたら絵を描いてそれに合う詩を添えたのかも・・・)
その時、私の中で「絵と詩」は全く別物のイメージでしたので、ロルカという人にも興味がわきました。
そして手っ取り早く知るためにアンディ・ガルシア主演の「ロルカ、暗殺の丘」を見たのを覚えています。
(その時は映画を見るだけで、知った気になってました・・・)
今回のメニュー作成にあたってロルカ関連の本を読み、詩を聴いて、その頃より深くロルカの芸術性に触れられた気がしています。
あ、そのメニューまでたどり着かない・・・次回へ続きます(^-^)
さて「ロルカ」というフィルターを通した料理ですが、、、
ロルカはスペイン南部アンダルシアのグラナダ出身です。
フラメンコとジプシー、闘牛、太陽と乾燥した大地など、多くの方がスペインに持つイメージはアンダルシアのものが多いです。
ロルカの詩、そして悲劇三部作にはそのアンダルシアがそのまま投影されていると言っても過言ではありません。
土臭く、ともすれば退廃的な空気の中に芸術的な言葉をもって伝統と前衛を融合させたロルカの作品は今も多くのスペイン人に愛され続けています。
自身の最期が悲劇であり、また常に「死」をイメージさせる言葉を紡ぐ詩人を通して一体どのような料理を作ろうかと悩みましたが、、、
料理は「素材を生き返らせる」という当たり前のことに気付き出来上がりました(^-^)
何がどう「ロルカ」なのかの説明は割愛させて頂きますが、、、
イチボ(牛肉の臀部の柔らかい部分)をほうれん草で包み、ブラックオリーブのペーストを塗ってオーブンで焼いています。
真ん中はビーツ(砂糖大根)のソース、右側は小さく切った根菜とゴボウを土付きのまま泡状にしたものです。
まずは1皿、、、次回へ続きます!
スペインの芸術家を通してコースを作るという試み、2人目は「アントニ・ガウディ」、サグラダ・ファミリアで有名な建築家です。
私が滞在してたバルセロナはまさにガウディ建築のメッカ。
サグラダ・ファミリアを始めとした多くの建物があります。
そんなバルセロナで私が初めて見たガウディの建物は「カサ・ビセンス」という、どちらかというとマイナーな建物でした。
なぜそれが最初かというと、ただ「住んでた場所から近かった」という理由です(笑)
散歩をしていてメイン通りから何気なく入った路地に異質な建物が、、
タイルとレンガを組み合わせた壁やシュロの葉模様の門に目と興味を奪われました。
中に入ってみたかったのですが、残念ながら住居のようで入れず。。。
(蛇足ですが、カサ・ビセンスは2007年に2700万ユーロで売りに出たそうです。2013年現在未だ買い手はつかず。
というかカサ・ビセンスは世界遺産なんですが、、、世界遺産って売れるんですね(°□°;)知りませんでした。)
それ以来、様々なガウディ建築を見ました。
サグラダ・ファミリアからレアル広場の街頭まで。
どういう思いや設計で作ったかというのは知らず、ただただ「すごいなあ」と見て周りました。
しかし、今回のメニューを作るに当たって1歩ガウディに踏み込んでみると「すごいなあ」どころではない、芸術家の凄さを知りました。
次回へ続きます(^-^)
写真はグエル公園の中央広場から撮影した門衛の小屋と東屋です。
本当はカサ・ビセンスの写真を載せたかったのですが、良い写真がなかったので、、悪しからず。
素人の私が観光がてら見て「すごいなあ」と思う、ガウディの建築はその表面的な感想以上のものをもっていました。
例えば、カサ・ミラはグラシア大通り沿いで一際目をひく集合住宅ですが、その芸術的な建築の中に「どの部屋にも光が均一に届くように窓の形や大きさを変える」、「屋上の奇抜な煙突は実は換気効率が非常に良い」などの実用性を十分に内包しています。
またグエル公園では工場で不要になったタイルやガラスを再利用しモザイクを作り(作ったのはガウディではありませんが)、
工事で出た不要な石を再利用して石の回廊を作り、それが樹木の根の支えになるように設計しています。
有名なサグラダ・ファミリアはただの教会にあらず、それ自体が巨大な楽器として音楽を、そしてライトを使った光の芸術を生み出すように設計されています。
ガウディ建築には「機能と構造(デザイン)と象徴(テーマ)を一体として考える」という特徴があるそうです(外尾悦郎著「ガウディの伝言」より)。
そしてその根本には「独創性(originality)とは新たな技法を用いて元(original)に近付くこと」という自身の言葉があります。
さて・・・そんな天才を通してどうやって料理を作りましょう・・・次回へ続きます(∋_∈)
料理の「元(原点)」って何でしょうか。
私は「体は食べるもので作られる」ということを念頭に、
材料を「より食べやすく、よりおいしく、そしてより楽しく」することが料理だと思っています。
一見奇抜に見える料理だとしても、その原点をはずすことがない。
「機能と構造と象徴を一体として」考えた一皿でガウディを表現してみました。
色々な食材を色々な組み合わせで食べて楽しめるような一皿になればという思いで作りました。たとえ全部を口の中に入れても合うように作っています(笑)
次回に続きます(^∀^)ノ
使う材料です。ペコロスのロースト、トマトの透明なジュレ、ビーツのゼリーシート、オリーブのヌーベ(泡)、飴色たまねぎのペースト、グリーンオリーブのフレークなどがあります。
じゃがいものでんぷんを使った「じゃがいものガラス」です。綿実油を表面にぬっています。
※追記 当時この料理に添えた図解です。
さて「スペインの芸術家を通して作る料理」でスペインを感じて頂くこの企画ですが、コースの最初のお皿になかなかいいものが思い浮かばない・・・。
そういえば、、、そもそも人はスペインという国にどういうイメージをもっているんだろうと思って早速調べてみました(^-^)
結果、「フラメンコ」「パエリア」「闘牛」のイメージが大半を占めていました。
多分、皆さんもどれかをイメージされるのではないでしょうか。
じゃあコースの導入部分にはその「スペインのイメージ」をそのまま当てはめてみよう♪
ということでコース最初の小さな前菜に「フラメンカエッグ」を用意することにしました!
色とりどりの野菜がフラメンコの踊り手が着る衣装のように華やかに見えるのでそう名づけられたらしいです。
クリスマスにお出しするのは「フラメンカエッグのキューブ」。
生ハムのスープの中に野菜とうずらの卵黄を入れて固めた料理です。
一口でパクッと召し上がって「スペインのイメージ」を感じて頂ければ幸いです。
3人目は音楽家「フェデリコ・モンポウ」。
私はこのメニューを考えるまでモンポウのことを全く知りませんでした。
スペインの音楽と言えば「アルハンブラの思い出」や「アランフェス協奏曲」などギター曲を思い浮かべます。
また作曲家としてはアルベニスやロルカの友人でもあったファリャなどしか知りませんでした(それも名前を聞いたことがある程度)。
ただそれらの曲を聴いてみても良いアイデアが思いつかなくて悩んでいたところ、モンポウを聴いて「これだ」と思いました。
サティやドビュッシーの影響下にあるといわれるモンポウは静かで内に向かうピアノ曲を多く作っています。
前項に関係しますが「スペイン人のイメージ」というと
「陽気」「情熱」「前向き」などが挙がるそうです。
が、モンポウはそれとは全くかけ離れた曲を作ります。
しかし美術史家の神吉敬三さんは自著の中で
「スペイン人は生得的に自己の内なる世界に向かう克己的でドラマティックな生き方を選ぶ、人間中心主義的な傾向がある」と書いてます。
モンポウの曲にはまさにそれを感じます。
無駄な虚飾も技も削ぎ落とした詩のような音です。
「これを料理にしたら」と瞬時にアイデアが思い浮かびました(^-^)
あんだけ時間をかけて悩んだガウディの時とは違うなあと思いながら(笑)
次回へ続きます!
モンポウを聴いて浮かんだ料理を確かにするために考えた結果、、「1回弾いてみよう」と思いました。
そして約15年ぶりに鍵盤をさわるという快挙(?)をなしとげました(笑)
へたくそながらも、なんとか弾けるくらいシンプルで音の数が少ないフレーズ(曲によると思いますが)、でもシンプルだからこそ間や強弱や感情を込めるのが難しい、そんな音楽に感じました。
モンポウのイメージで使う食材は「鯛」。
鯛をコンフィにして、鯛の出汁から作ったスープに浮かべます。
鯛はコンフィにする前に5種類のスパイスで一晩マリネします。
鯛のスープにはにんにくを合わせます。
シンプルだけど色々な香りや味がする料理、モンポウを知らない人にもモンポウを感じて頂ければ幸いです(^-^)
まだ、次回へ続きます(笑)
さて、スペインの芸術家4人目は画家。
スペインの画家と言えばピカソ、ダリ、17~18世紀にはベラスケス、エル・グレコ、ゴヤなど大物がいます。
私はその中の誰でもなく「ジョアン・ミロ」を選びました。
理由は「初めて絵から料理のインスピレーションを得た画家」だったからです。
バルセロナに滞在していたときモンジュイックの丘にあるミロ美術館に行きました。
初めてミロを見て、極めて簡素(に見えた)で難解(に見えた)な原色の絵に惹かれて、帰宅してすぐにレシピを考えたことを覚えています。
その時はまさかこのような形でそのレシピを再現するとは夢にも思ってませんでしたが(笑)
しかしミロのことをその時よりも知ることができた今、より良いレシピを再現することができました(^-^)
次回へ続きます!
写真は7年前に書いたレシピです(シャーペンで書いてるのですれて字が薄くなってますが・・)。
ミロの孫のダビットがピカソ邸を訪れた際に
ピカソの家には「凶暴ともいえる程の混乱をもたらす途方もない創造力がみなぎっている」が
ミロの家には「安らぎに満ちて謎めいたエネルギーにあふれている」と感想を述べています(「ミロのアトリエ」J.P.ミロ著)
この文を読んでミロの芸術の一端がわかった気がしました。
絵画に興味がなかった頃、簡素な絵を見ては「自分でも描けるのでは」と思っていました。
ミロの絵も「青」や「死刑囚の希望」に代表されるような一見「誰でも描けそう」な絵があります。
しかしそれは「最小の力で最大に到達する」という自身の崇高な目標に到達しうる絵でもあります。
(蛇足ですが、「わび・さび」の日本文化と通ずる気がします)
私はそこまで料理を「最小の力」にする技量も自信もまだまだありません。
そして考えた末、ミロの絵をイメージして普段は主役になることがない「ソース」が主役の一皿を作ることにしました(^-^)
まだ続きます!
「ソースを食べる」と題して
4種類のソースを使った一皿を用意しました。
赤は「トマト、パプリカ、鰤のスープ」
緑は「ルッコラ、松の実、オリーブオイル」
黄は「卵黄、昆布出汁」
黒は「イカ墨、スパイス」
などで作ったソースです。
「付け合せ」に炙った海老とイカをサフランで色づけたものを添えます(^-^)
全部のソースが混ざってもおいしくなるように作りました。
ぜひパンと一緒に召し上がって下さい。
なんだかんだでもうすぐクリスマスですね。
あっという間です。さすが師走。
さて、コース最後の「しめ」を何にしようか考えていたのですが、
コースの最初をスペインの代表的なイメージ「フラメンコ」にしたので、
やはり最後はもう一つの代表的なイメージ「パエリア」で締めることにしました(^-^)
パエリアを作り、それをすぐにコロッケにしたものです。
衣にはあられ、乾燥海老などを混ぜて作り、下に海老の出汁がたっぷり出たスープを注ぎます。
蛇足ですが、パエリアはスペインでは「前菜」に位置します(米は「野菜」として扱われることが多いため)。
米で締めたくなるのはやっぱり日本人ですね(^∀^)
長々と続けてきたこのシリーズもこれで最後です!
5人目の芸術家は料理人「カルメ・ルスカイェーダ」さんです。
世界でも数少ない現役のミシュラン三ツ星女性シェフとして
カタルーニャと東京に「サンパウ」というレストランをもち、
伝統をベースに斬新さと繊細さを加えた料理を作ってらっしゃいます。
実は私がスペイン料理に関わるようになったのは「サンパウ」がきっかけなんです。
ちょうど東京店がオープンした2004年、その頃「スペイン料理」について何も知らなかった私はサンパウの料理を食べて衝撃を受けました。
生まれて初めて「スペイン料理」と「洗練」という言葉が結びつきました(笑)
それからサンパウ本店が初めて三ツ星を獲得した2006年に、サン・ポル・デ・マルにある本店を訪れました。
サン・ポル・デ・マルはバルセロナから地中海を臨む列車に揺られ約45分、海沿いの小さな町です。
はるか雲の上のシェフを私が語るのもおこがましい気がするのですが、
あえて言うと彼女の作る料理は「バランスが素晴らしい」といえます。
味はもちろん、それぞれの食材の量、食感、伝統と前衛の組み合わせ、
そのどれもが一皿の中でバランスよく保たれていて、不思議と安心感がありました。
食後、テーブルで話す機会があり色々なことを聞きました。
中でも印象に残ったのはその日の一皿に「ところてん」が使われており、
それについて聞いたところ「自分は何でも取り入れてみる、何に対しても料理で壁は作らない」
というようなことを仰っていました。
私の作る料理は「スペイン料理」ではありません。
いつもお客さんには「スペイン風料理」と言っています(笑)
もしかしたら心のどこかでルスカイェーダさんのその言葉が支えになっているのかもしれません。
さて、最後のデザートです。
3層のケーキで、
下に「ピスタチオのスポンジ」、
間に「4種のベリーのゼリー」
上に「ホワイトチョコレートのムース」
を合わせています。
3層がそれぞれを引き立たせるように「バランス」よく、奇をてらわず、パフォーマンス無しのデザートをイメージして作りました。
最後の最後にまた長くなってしまいましたが、
これで「valeのクリスマス」は終わりです。
さて、いよいよ明日から5日間本番です!
読んで下さりありがとうございました(^-^)